人生の5冊

これまでの人生で、引き込まれるように読んだ本を紹介します。

食べ物はじまり事典(学研まんが 事典シリーズ) 1992

小学生の時に読んでいた本です。学研まんがの重鎮が複数参加しています。読んでいた当時もあまり見かけませんでしたが、今となっては中古でも中々手に入らない貴重な本となってしまいました。

私は漫画の中で食べ物が出てくると何故か嬉しくなる質だったので、全編に渡って食べ物の話ばかりの本書は琴線に触れまくりで何度も借りて読んで、好きな本のアンケートにもこの本を書いたことを覚えています。

事典としての内容も素晴らしく、クロワッサンが三日月型の理由、ポテトチップスが薄い理由、肉まんと諸葛孔明など、現在でも豆知識やクイズのネタで使われる知識を幼少期に手に入れることができました。

近藤恵『ミニコミのつくり方』1997

中学生の時に読んでいた本です。著者のものづくりの原点から、音楽系のミニコミ誌『Vanda』刊行に至る流れを実用的かつ面白くまとめた逸品。正方形に近い特殊判で、特徴的なイラストと黄色い表紙がかわいい。デジタルが原則となる前の版下作りの工程を記録した資料としても貴重です。図書館で何回も借りて読みました。

本書を真似して自分しか読まないミニコミを書いていました。この時に覚えた中綴じや平綴じの方法や、インレタでのノンブル付け方が、高校での文芸部の会誌作りにそのまま役に立ちました。何かを自分でつくることの楽しさと充実感を教えてくれた本です。

ちなみに、この本を読んで初めて MAC (Apple の Macintosh) を知りました。読み方もエムエーシーと読んでいて、印刷用のコンピューターだと思っていました。

村上春樹『雨天炎天』1991

高校の時に読んでいた本です。村上さんはいくつか紀行文を出していますが、本作の舞台はギリシアとトルコです。本書に限らず、2002、2003年頃はそれまでに出ていた村上さんの小説・紀行文・エッセイを片っ端に読んでいました。どれも本当に面白いんですが、長編では『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』が好きかな。

本書は200ページ程度と紀行文としては比較的薄めなんですが、ギリシアのアトス山の教会巡りと黒海沿岸の旅はまるで村上さん達と一緒に1ヶ月を過ごしたかのような感覚に陥る濃密さです。というか、現実にやったのが信じられないほとタフですよ。特筆すべきは食べ物の描写で、読んでいると食べ物のシェイプやみずみずしさが脳内に描かれ、ルクミの舌の浮く甘さや菜園のトマトの栄養が身体に吸収される様子を体感してしまいます。そういえば、『世界の終り~』でも食べ物の描写のは素敵でしたね。胃下垂の女の子にご飯を作るシーンが好きでした。

益子貴寛『Web 標準の教科書』2005

大学の時にずっと読んでいた本です。ちょっとした辞書くらいの厚さなのですが、カバンに入れて空いた時間があれば読んでいました。おそらく人生で一番集中して読んだのが本書です。レイアウトや配色が美しいのもポイント。

当時策定段階だった XHTML を強く意識して書かれているため、HTML5 が治める現代においては解釈の違う内容が含まれています。それでも本書が優れているのは作者の経験と感覚ではなく、Web 標準の原則に基づいて書かれているからです。何かを学ぶとき、抽象化された情報や耳触りのよい言葉だけを頼りにすると、時代の変化の度に多くを学び直すことになります。学びたい対象より、より原則的なことを学ぶと知識の鮮度はなかなか衰えません。

この時に叩き込んだ Web 標準への考え方が、後に Web 業界で働き、インフラ側になって今に至るまでの強いバッググラウンドになっていると思います。

高橋みどり『ヨーガン レールの社員食堂』2007

就職を決めずに大学を卒業した時に読んでいた本です。この時は、これから何をすれば良いのか分からず、暗い霧の中に放り込まれた感覚でした。部屋を引き払って実家に帰る前、ミスタードーナツの飲茶を食べながら読んでいたのを思い出します。

本としてみると、テキストで埋めた装丁が私好みで素敵です。内容は、とにかく優しい。冬の昼下がりに西日で暖かくなった縁側でうたた寝をしている時のような穏やかな感覚。ヨーガンレールさんの食へのこだわりとそれを実現する料理人の佐藤雅子さんの腕を、写真とともに高橋さんの日々の記録として語りかけてくる。この優しさが、どうしていいか分からなかった当時の私には救いでした。